この土地の風、この人の手、この青の味。すべてが、ここでしか生まれない。
有限会社グリーンハウス 取締役 第三生産部 兼 包装センター長 松村航汰さま
(取材日:2025年9月30日)




①はじまりと歩み
潮風が吹き抜ける山陽小野田市・西高泊。
いまでは青々としたネギ畑が一面に広がるこの地も、かつては海の底でした。
1961年、国の干拓事業によって新しく生まれた土地に、ひとりの若者が足を踏み入れます。
彼こそが、有限会社グリーンハウスの礎を築いた松村家の祖父でした。
当時まだ二十代。農業の経験もないまま、「この土地で農業をやってみないか」という国の呼びかけに応え、数人の仲間とともに入植。
海を埋め立てたばかりの荒地を相手に、一本の鍬を手に夢を描いたのです。
しかし、そこに待っていたのは想像を超える自然との闘いでした。
塩分を多く含む干拓地は、米も麦も根が張らず、苗がすぐに枯れてしまう。
「今年もダメか」──何度もそう呟きながらも、祖父は決して諦めませんでした。
水はけを良くするために暗渠(あんきょ)排水を張り巡らせる方法を試みます。
毎年少しずつ、塩を抜き、土を育て、作物が実る喜びを積み重ねていったのです。
その姿を少年時代の父が見つめ、そしてその背中を、いま三代目の松村航汰さんが引き継いでいます。
60年以上経ったいまも、この土地の下には、祖父の執念が張り巡らせた排水パイプが静かに流れ続けています。
やがて1990年代初頭。時代は減反政策の波が押し寄せ、米づくりが難しくなります。
「次の時代を生きる作物を探せ」──そんな想いで祖父が訪れたのは、福岡県の農地。
その光景に衝撃を受けた祖父は、帰郷するとすぐにネギの試作を始めます。
そして平成4年、グリーンハウスのネギ栽培が本格スタート。
JAとともにブランド名を公募し、誕生したのが「おのだネギ三昧」。
「毎日食べても飽きないほど美味しいネギを」──そんな願いが込められています。
どこか山陽小野田らしいユーモアと温かさが、ブランド名の響きに宿っています。
開拓から始まった松村家の物語は、
土を耕すだけでなく、“地域の誇りを耕す物語”へと続いています。
祖父が夢見た豊かな大地は、父が企業として育て、そして今、三代目・航汰さんの手によって
“山陽小野田の顔”として、さらに新しい挑戦を続けているのです。









②生産する野菜と地産地消
ここで生まれた「塩の記憶」が、“味”として結実していきます。
海の名残を抱いた土壌は、今もわずかに塩を含み、そこで育つ野菜たちは独自の風味を纏います。
おのだネギ三昧の香りや甘み──それは、この土地の塩が記憶している“海の時間”が作り出す味なのです。
松村航汰さんは微笑みながら言います。
「この土地だからこそできるネギです。ほんの少しの塩分ストレスがネギを鍛え、味を濃くしてくれる。だから“おのだネギ三昧”は、海と大地が一緒に育てた野菜なんです。」
今やグリーンハウスの看板商品「おのだネギ三昧」は、山口県内の卸売市場にとどまらず、東京・大阪へも出荷され、県産ネギの約九割を担う存在へと成長しました。
つまり、県内のスーパーで「山口県産ネギ」と書かれたパッケージの多くは、グリーンハウスのネギなのです。
しかし、彼らの挑戦はネギだけに留まりません。
干拓の地の土壌を生かして、ミニトマト、チンゲン菜、ズッキーニ、枝豆など、多彩な野菜にも取り組んでいます。
「野菜は自然との対話。毎年違う顔を見せてくれるから面白いんです。」
松村さんの言葉通り、畑では季節ごとに色や香りが移り変わり、海風とともに息づいています。
また、グリーンハウスの取り組みで特筆すべきは、地域の子どもたちとの関わりです。
社会科見学の受け入れを始めて20年以上。
小学生たちは畑でネギを抜き、そのまま手に持って家に帰り、家族と一緒に味わう──そんな体験を続けています。
子どもたちの笑顔とともに「地元で育った野菜を食べる喜び」が、自然と家庭の食卓に広がっていくのです。
「ネギを家に持ち帰って、“お母さんが味噌汁に入れてくれた”と嬉しそうに話してくれる。その瞬間、地産地消が“体験”になるんです。」
まさに、グリーンハウスの農業は「作る」だけではなく、「伝える」「つなぐ」ための農業。
それは、地域に根を張る“生きた教育”であり、未来へ向けた“食の継承”でもあります。
海の底だった土地が、今では「地域の味」を育てる畑となり、そこに生まれたネギ三昧は、まさに“塩と人が共に耕した味”なのです。

③技術と挑戦
グリーンハウスの強みは、ただ“手で作る農業”ではない。
そこには、自然とテクノロジーが共存する次世代の農業像があります。
同社は早くから農業の安全・環境・労働安全を体系的に管理し、国際規格にも通じる“安心の見える化”を進めてきました。
松村航汰さんはこう語ります。
「安心して食べてもらうためには、感覚や経験だけでなく、きちんとした“根拠”が必要なんです。農業も、ものづくりの現場と同じ。安全の工程管理が欠かせません。」
畑ではGPSを搭載した施肥機が、設定した位置と量を正確に制御し、
水やりはタイマー式で自動的に行われます。
「肥料を撒く」「水をやる」という昔ながらの作業が、いまはデータに基づく精密な仕事へと変化しているのです。
さらに松村さんは、ドローンによる薬剤散布やAIを使った温度・湿度の自動制御にも関心を寄せています。
「例えば、畑の湿度や温度をAIが読み取って、最適な水の量を判断してくれる。そんな未来も遠くありません。機械やデータを上手に使うことで、働く人の負担を減らしながら、品質を安定させる。それがこれからの農業の形です。」
“人の勘”と“データの精度”。
この2つをかけ合わせたハイブリッドな農業こそ、グリーンハウスが描く“進化する地産地消”の姿です。






④ひと・モノ・コトの物語
グリーンハウスの畑には、山陽小野田の人々だけでなく、海の向こうから来た若者たちの夢も根を張っています。
外国人実習生としてタイから来た青年が、ここで学んだ技術を母国で活かし、ズッキーニやナスの栽培に挑戦している──そんなエピソードも生まれました。
「“学びたい”という意欲を持った人たちに、うちの畑がそのきっかけになれるのは嬉しいですね。」
畑で生まれるのは、野菜だけではありません。
ここには、“人が育つ農業” というもう一つの物語が息づいています。
そして、グリーンハウスのネギ三昧は、今や地域の食卓にも欠かせない存在です。
地元の人気店「ラーメン加藤」など、山陽小野田の多くの飲食店でその名を見かけるようになりました。
店先にはのぼり旗。
それを見つけると、松村さんは少し照れくさそうに笑います。
「地元のお店で“うちのネギを食べてもらってる”と思うと、やっぱり嬉しいですね。ネギ焼きやお好み焼きにも使ってもらえるようになってきて、イベントでもPRできる機会が増えました。」
イベント出店では、スタッフ自ら“ネギ焼き”を焼き上げることも。
焼けた香りが漂い、客の「おいしい!」の声が聞こえるたびに、農業のやりがいを実感するのだといいます。
そして、松村さんが最も大切にしているのは、消費者へのメッセージです。
「うちのネギは“辛味と香り”が特徴です。生ではピリッと、火を通すと甘く変化する。そのギャップを楽しんでもらいたいんです。脇役じゃなくて、料理の主役になれるネギなんですよ。」
塩分ストレスが生んだ“芯のある味”。
それを知ると、ネギを添える手にも自然と力が入る。
グリーンハウスのネギ三昧は、まさに“土地と人の努力の結晶”なのです。

⑤未来へのビジョン
グリーンハウスが見据える未来は、単に売上や規模を追うものではありません。
それは、「山陽小野田=ネギ三昧」 というブランドを確立し、地域全体の誇りとなること。
「この土地でしか作れないものを、この土地の人たちと届けたい。ネギを通して“山陽小野田の名前”を全国に広げていけたら。」
松村家が代々大切にしてきた理念があります。
「農業で豊かな暮らしを」「努力で匠を育て、職場と地域を笑顔に」
この言葉は、会社の指針であると同時に、農業人としての“生き方”そのもの。
農業を次の世代へとつなぎ、働く人にも誇りを与える──。
松村さんの背中には、祖父から父へ、そして自分へと続く、60年の重みが刻まれています。
「祖父が耕した干拓の土を、今度は僕らが未来に残していく番です。山陽小野田の農業をもっと元気に、そして“地産地消”を地域の誇りに変えていきたいですね。」
開拓の地に吹いていた潮風は、いまも変わらずグリーンハウスの畑を渡っています。
その風に乗って、ネギ三昧の香りは県内外へと広がり、
“山陽小野田から生まれた味”として、多くの食卓に笑顔を運んでいるのです。




⑥ぶっちゃけインタビュー!松村航汰さんの素顔に迫る
🍀好きな農産物・特産品
「最近、釣りにハマってるんですよ。萩の海まで行って、イカとかカワハギを釣るんです。
自分で釣って、自分でさばいて、刺身で食べるのが楽しみですね。
釣った魚を食べると、やっぱり格別です。」
農業も釣りも、自然と向き合い、相手の呼吸を読む。
どちらも“思い通りにならない面白さ”があるのかもしれません。
自然に挑むその姿勢は、仕事にも通じています。
🍜ソウルフード
「中華そば一久 小野田バイパス店のチャーシュー麺が大好きなんです。
学生の頃からよく通っていて、今でも時々食べたくなります。
あの香りがすると、“ああ、地元に帰ってきたな”って思うんです。」
松村さんにとって、一久のラーメンは“味のふるさと”。
変わらない味が、いつでも日常をリセットしてくれる。
この一杯に、彼の原点と郷土への愛が詰まっています。
🌊おすすめスポット
「萩城下の海です。あの辺りでキス釣りをよくしていました。
波の音しか聞こえない静かな場所で、頭の中を整理する時間が好きなんです。」
自然の音だけが響く場所。
仕事のことも未来のことも、波のリズムに合わせて考える。
その穏やかな時間が、松村さんにとって“もう一つの畑”なのかもしれません。
🎸意外な一面
「大学の頃、軽音サークルでギターとボーカルをやってました。
コピーしてたのはエルレガーデンとかモンパチ。
ライブでは“人が変わる”ってよく言われましたね。」
普段は穏やかで控えめな松村さん。
けれど、ステージに立てば一変し、会場を盛り上げる情熱的な一面を持っています。
その経験は、今のチームづくりにも活きているそうです。
「仲間と息を合わせて、一つの音を作り上げていく感覚が好きでした。
仕事でも同じです。スタッフみんなで力を合わせて、いいものを作る瞬間がいちばん嬉しいですね。」
ステージで培ったリーダーシップと調和の感覚が、
いま、グリーンハウスの現場でも確かに息づいています。



⑦地産地消プロデューサーの編集後記
山口県で流通するネギの9割以上を供給しているのが、ここ山陽小野田市・西高泊にあるグリーンハウスです。
その事実を聞いた瞬間、驚きよりも先に「誇らしい」という感情が込み上げてきました。
それは単なる数字ではなく、60年以上にわたり“海だった土地を耕し続けてきた家族の物語”そのものだからです。
干拓の地で塩害と闘いながら、祖父が土を作り、父が企業として形を整え、
そして三代目の松村航汰さんが未来を見据えている。
この地のネギは、まさに「努力の味」なのです。
取材の中で松村さんは、ネギ三昧の魅力をこう語ってくれました。
「香りと辛味がしっかりあって、火を入れると一気に甘みが出ます。
それに包丁を入れるとネギが“踊る”んですよ。
弾力があって、切った瞬間にシャキッと跳ね返る感じ。鮮度の証です。」
この“ネギが踊る”という表現に、私は心を奪われました。
まるで大地のエネルギーそのものが、一本のネギに宿っているように感じたのです。
塩分ストレスを受けながらも力強く育つ青ネギは、
香り、辛味、甘み、食感──すべてが調和し、まさに“土地が奏でる味”。
航汰さんの言葉を聞きながら、私は“地産地消”という言葉の本当の意味を思い出していました。
それは「地元のものを食べる」ことではなく、
「地元の人の生き方を味わうこと」なのだと。
潮の地に芽吹いた緑の一本一本が、開拓者たちの誇りを語り続けています。
そして、そのネギが県内外の食卓に届くたびに、
山陽小野田という土地の物語もまた、静かに広がっていくのです。
山口の食卓に広がる、香りと辛味と甘みのハーモニー。
それが「おのだネギ三昧」という名の物語です。



援むすび山口の読者プレゼント
有限会社 グリーンハウスさんより、素敵なプレゼント
グリーンハウス「お楽しみ野菜セット」
山陽小野田市の農園「グリーンハウス」さんから、人気のブランドネギ〈ネギ三昧〉を中心に、季節の野菜を詰め合わせた“お楽しみセット”をプレゼント!
取材の際に「せっかくなら、旬の野菜も一緒に楽しんでもらいたい」と特別にご用意いただきました。
12月上旬に発送予定で、その時期に採れた新鮮野菜3~4品目が入ります。
(例:小ネギ・ミニトマト・チンゲン菜など)
応募は「援むすび山口 公式LINE」から
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