江原達也市長と語る、長門の地産地消の未来

山口県北西部に位置する長門市。日本海に面し、豊かな漁場と山の幸を併せ持つ、まさに“地産地消”の宝庫です。
今回は援むすび山口取材で江原達也市長を訪問。
驚いたのは、取材前に市長自ら質問への回答を丁寧に文章化して用意してくださったこと。そこには長門の農林水産業、観光、地域活性化への強い思いと具体策が詰まっていました。(取材日:2025年6月23日)




1. リスペクトを忘れない──長門の畜産ブランドの未来
長門市の農業産出額の約6割を占めるのが、長州どりと長州ながと和牛。
市長は開口一番こう言いました。
「これは長門の自然と農家の情熱が育んだ宝物。農家へのリスペクトを忘れてはならない。」
長門の畜産は、自然条件と技術力が融合して初めて成立する産業です。市では今、向津具地区に大規模畜産団地の整備を進めています。目的はまず生産量の安定確保。量があって初めて、販路拡大やブランド化に取り組めます。
次に目指すのは、Aコープ長門店や地元スーパーでの販売体制強化。市民が「美味しい」と感じることがブランド浸透の第一歩だと市長は考えています。その後、観光や外部市場への展開へとつなげていく──堅実かつ着実な戦略です。




2. センザキッチン──観光と暮らしをつなぐ交流拠点
「センザキッチン」は単なる道の駅ではありません。
市長はここを、観光客と生産者・サービス提供者が交わる“まちの交流拠点”と位置づけています。
食×観光×産業という新しいまちのかたち
江原市長が描く未来の長門は、ただ観光客が訪れて湯に浸かり、名物を食べて帰るだけのまちではありません。
そこには、地元の食材を軸にした産業と観光が手を取り合い、地域全体を動かす循環型の仕組みがあります。
その象徴が「センザキッチン」。
ここは単なる道の駅ではなく、地域情報や地元食材の発信拠点であり、体験型観光や地域産業との連携が同時に実現できる場所です。
近隣にはおもちゃ美術館や観光汽船、金子みすゞ記念館が点在し、それらを回遊しながら地域の自然や文化に触れ、さらに地元産品を味わう──長門市の“まち全体が観光施設”になる姿を市長は思い描いています。
「地産地消の発信拠点であると同時に、観光客と市民が交わる場にしたい。長門の魅力を、ここから広げていく。」
この構想は、観光による賑わいと、一次産業の収益向上を両立させる挑戦です。
市長は「センザキッチンでしか買えない商品」が増えてきたことを大きな成果と語ります。地域の生産者と加工業者による新商品開発が進み、県内他地域との差別化ができつつあります。

観光としての個性と進化
長門市の観光資源は、温泉、海、山、食、文化──そのどれもが一級品です。
江原市長は、それらを「自然を活かした体験型観光」という形で磨き上げようとしています。
油谷伊上地区の再開発はその一例。
3つの湾(油谷湾・深川湾・仙崎湾)に囲まれた地形は、冬でも穏やかな海を活用したカヤックやダイビングなど、多様なアクティビティを可能にします。
さらに、地域でとれた魚や地元の特産品をその場で味わうことで、観光と食の価値が一体となる仕掛けも構想中です。
「長門らしい魅力を生かし、地域資源を最大限に活用する。それが市全体の活性化につながる。」
温泉地は五名湯それぞれの特色を磨き、地域文化と結びつけながら進化。
海と山の恵みを背景に、食・観光・産業が一体となって未来を描く──その姿に、市長の信念と情熱がにじみます。



3. 五名湯の個性と再生──俵山温泉の挑戦
長門市の温泉文化を語るとき、欠かせないのが長門温泉郷五名湯。
湯本・俵山・湯免・黄波戸・油谷湾──それぞれが異なる風情と魅力を持ち、地域の誇りとして受け継がれています。
湯本温泉:新しい風が吹く“そぞろ歩き”のまち
2020年のリニューアルを経て、夜は川沿いに灯籠が並び、足湯やカフェ、雑貨店がしっとりと光を放つ温泉街。若い世代が中心となったイベントの開催や、四季折々の景色を活かした企画で、まちに「夜の居場所」が増えています。
市長も「季節ごとの変化とイベントの組み合わせで、滞在の理由が広がっている」と評価しています。
俵山温泉:湯治文化と「まちごと旅館」構想
江戸時代から続く湯治場として全国に知られる俵山温泉。外湯文化を守り、長期滞在で心身を癒やすスタイルは今も息づいています。
現在は、湯治文化という唯一無二の歴史資産を未来へつなぐため、「まちごと旅館」構想が進行中です。
この構想では、温泉街全体を一つの旅館に見立て、空き旅館を一括管理。宿泊者は「町の湯」と「白猿の湯」の二つの外湯を巡りながら、まちでの滞在を楽しむことができます。
江原市長は「民間事業者が核となり、行政が後押しする形が理想」と語ります。
湯免・黄波戸・油谷湾:特色を磨く三湯
- 湯免温泉:アルカリ性単純温泉で肌触りが柔らかく、古くから「美肌の湯」として親しまれてきました。
- 黄波戸温泉:日本海を望む絶景と深い静けさが魅力。海沿いの露天風呂では、波音と潮風を感じながら過ごせます。
- 油谷湾温泉:穏やかな湾と夕日の美しさが格別で、訪れる人をゆったりと包み込みます。「温泉総選挙2018」において、「うる肌部門」で第1位を受賞しました。
これらの温泉地も、それぞれの景観・泉質・文化を活かしながら、より魅力的な滞在の形を模索しています。
温泉は、ただ湯に浸かるだけの場所ではありません。
温泉街で味わう食事や土産物は、その土地の農林水産業と直結しています。
例えば、俵山温泉での湯治滞在に、地元野菜の定食、長州ながと和牛のすき焼き、漁港直送の刺身が組み合わされれば、それは“温泉×地産地消”の理想形です。
もし「まちごと旅館」構想にこうした食体験が加われば、滞在価値はさらに高まり、その利益が生産者、商店、宿泊業へ循環する仕組みが生まれます。
五名湯がそれぞれの個性を磨きながら連携し、長門市全体の魅力を底上げしていく──その未来像が、ここにはあります。

4. 一次産業の担い手確保──持続可能な仕組みづくり
最大の壁は、担い手不足と資源の減少。スマート農業や育てる漁業は、これからの長門の将来に欠かせない取り組みです。
市では様々な人材確保策を進めています。
例えば
- 農業高校・農業大学校との連携
- 奨学金制度による医療福祉の地元回帰支援
- 学生と生産者の交流・視察機会の創出
- 地域おこし協力隊など外部人材の活用
市長は「職業として魅力があり、安定収入を得られるモデルを構築しなければ若者は戻らない」と語ります。
そのために、高付加価値化・ブランド化・販路拡大を同時進行させる必要があります。

5.市長が語る、長門のとっておき
江原市長に「長門でぜひ訪れてほしい場所は?」と尋ねると、迷わず返ってきたのが千畳敷の名前でした。
標高333メートルの高台に広がる芝生と、日本海の大パノラマ。
潮風に揺れる草原の向こうには、青く広がる海と空が一体になった景色が広がります。
市長にとって千畳敷は特別な場所。子どもの頃から走り回って遊んだ原風景でもあります。
「この景色は、何度見ても心が洗われる。長門に来たら、ぜひ立ち寄ってほしいですね。」
そしてもうひとつ、市長が誇らしげに挙げたのがやきとり。
長門市は人口あたりのやきとり店数が全国トップクラス。
その背景には、特産品の蒲鉾づくりの生産過程で出る魚のアラを鶏の餌として活用してきたという、昔からの循環の食文化があります。
この土地で育った長州どりを使った焼き鳥は、香ばしく、肉の旨みがしっかり。
地元の人々はもちろん、訪れる人をも虜にします。
千畳敷の絶景と、夜には地元の焼き鳥店で味わう長州どり。
これこそが、江原市長が胸を張ってすすめる“長門のとっておき”です。

6. 「小さくても元気なまちでありたい」
江原市長は、未来の長門を語るとき、決して理想だけを並べません。
人口減少という現実に正面から向き合い、その上で「どうすれば元気なまちであり続けられるか」を真剣に考えています。
「2050年には長門の人口は半分になると言われています。小さくなるのは避けられない。でも、その中で元気なまちであり続けたい。」
市長が言う“元気”とは、単にイベントが多いことや施設が整っていることではありません。
市民が自分のまちに誇りを持ち、住み続けたいと思うこと。
外から来た人が「また来たい」と思える空気。
その空気をつくるのは、人であり、地域のつながりであり、長門らしい暮らしの文化です。
センザキッチンをはじめとする地産地消の拠点づくり、五名湯それぞれの温泉再生、自然を活かした体験型観光──これらはすべて、将来の長門を支える仕組みの一部。
一次産業と観光の賑わいの復興、そして暮らしの豊かさを同時に守るための挑戦です。
「長門の未来は、これからの行動で決まります。元気なまちを次の世代に渡すため、挑戦を止めるわけにはいきません。」
人口が減っても、まちの誇りを失わない。
江原市長のまちづくりは、その信念を中心に据えて動き続けています。

7.江原市長のぶっちゃけ人柄と、ご当地駅弁のアイデア
江原市長と話していると、まず感じるのは気取らない親しみやすさ。
真面目なまちづくりの話をしていたかと思えば、食の話題になると一気にテンションが上がります。
地元食材や料理について語る時の表情は、まるで食レポ番組のよう。作り手や背景にある物語まで含めて、熱く語ってくれます。



そんな市長に「もし、長門の地産地消駅弁を作るなら?」と聞いてみると、即座に具体的なメニュー案が返ってきました。
「焼き鳥弁当(タレ)、チキンヒーロー弁当、そしてフグ・クロマグロ・チキンが一度に味わえる定食。これをセットにしたいですね。」
焼き鳥は長門の食文化を象徴する一品。チキンヒーローは地元で愛される味。そこに高級感あるフグ、そして港町ならではのクロマグロを組み合わせれば、まさに“長門の海・畜産を一度に体験できる豪華駅弁”になります。
市長は笑顔で「ちょっと贅沢だけど、観光で来た人にも地元の人にも喜ばれるはず」と語ります。
この一言からも、長門の食文化をどう魅せるか、常にアンテナを張っていることが分かります。
駅弁の話からも伝わってくるのは、江原市長の“食への情熱”と“行動力”。
こうした発想力とフットワークの軽さこそが、長門のまちづくりを前へ進める原動力になっています。




地産地消プロデューサーとして感じたこと
今回、江原市長の言葉を聞きながら、私は改めて「地産地消」という言葉の奥行きを考えさせられました。
地元で作ったものを地元で消費する──それは単なる食の循環にとどまりません。
そこには、生産者の誇り、作り手と買い手をつなぐ信頼、そして地域全体を動かす経済の流れが詰まっています。
俵山温泉の「まちごと旅館」構想にしても、センザキッチンの役割にしても、油谷伊上の再開発にしても、根底にあるのは地域で生まれた価値を地域全体で磨き、分かち合う仕組みです。
観光客が温泉に浸かり、地元の魚や肉、野菜を味わい、その体験を持ち帰って語ってくれる。
それが次の来訪者を呼び、さらに地域にお金と人の流れを生み出す。
援むすび山口の編集長として、そして地産地消プロデューサーとして、私はこの循環をもっと強く、もっと面白くしていきたい。
江原市長の構想や言葉を受け取りながら、「長門の魅力はまだまだ掘り起こせる」という確信が生まれました。
私たちの役割は、それを発見し、編集し、物語として届けること。
地産地消は、単なる経済活動ではなく、地域の未来をデザインする行為です。
そしてその未来を一緒に描く仲間が、ここ長門にも確かにいる──それが今回の取材で得た最大の実感です。

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