阿武町の自然と人が育む“本物”
日本海に面した小さな町、阿武町。
ここには、森・里・海の恵みと、真面目で温かな人々が暮らす風景があります。道の駅発祥の地として知られ、訪れる人々を魅了してやまない阿武町。今回は、花田憲彦町長にじっくりとお話を伺いました。(取材日:2024年11月13日)
取材を通して感じたのは、町長の底抜けのエネルギーと、人と地域への愛情。そしてその言葉の一つひとつが、この町の未来を描く設計図のようでした。



無角和牛──絶滅危惧からの挑戦
そして、今回の取材で最も時間を割いて語られたのが無角和牛です。
大正9年、この地域で誕生した無角和牛は、全国でわずか約200頭。うち約150頭が阿武町で飼育されています。かつては1万頭を誇ったこの牛も、今や国内全体で肥育されている和牛のうち0.01%という希少種です。

しかし町長は、この牛を「単なる希少価値では売らない」と断言します。
重要なのは“アニマルウェルフェア”──牛が自然の中で、無理なく、幸せに育つ環境を守ること。ビタミンA制限や無理な肥育で霜降りを作る一般的な和牛とは一線を画し、草を食(は)み、健康に育つ赤身肉の魅力を引き出す飼育法に徹しています。
町長はこの理念を東京・赤坂の有名店「ヴァッカロッサ」のシェフ、渡邊雅之氏に熱く語り、共鳴を得ました。そして彼は阿武町に移住し、このプロジェクトに参加。3年という期限で、無角和牛を全国、そして世界に届ける挑戦が始まったのです。
「僕の夢は、無角和牛を世界の高級食文化に載せること。日本酒がドバイに並ぶように、この牛を世界の食卓へ」と町長。
おすすめの食べ方はローストビーフ。四面をカリッと焼き、中をレアに仕上げることで、赤身のジューシーさと旨味が最大限に引き立つといいます。



キウイフルーツ──失敗から生まれた新しい産地
昭和50年代、壊滅的な寒波で夏みかんが全滅。代わりに導入されたのがキウイフルーツでした。当初は「手がかからない」と言われたものの、実際は剪定や病気対策が欠かせない手のかかる果物。それでも生産を続け、今では山口県最大の産地に。7〜8種類の品種を組み合わせ、旬をずらしながら出荷する工夫がされています。
福賀すいか──一株一果の誇り
まず最初に飛び出したのは「福賀すいか」への熱い想い。
1株から1つだけ実らせる“一株一果”という贅沢な栽培方法。重さは10〜13kg、皮は薄く、糖度は驚くほど高い。収穫量は年間約1万個、わずか5人の生産者がこだわり抜いて作るその姿は、まさに阿武町の“職人魂”そのものです。
「縁起の良い名前だろう? 福賀の“福”だからね」と笑う町長。その笑顔に、町の誇りと自信がにじみます。
道の駅発祥の地から広がる交流
阿武町の道の駅は全国初。10年前に全面リニューアルされ、隣接する「ABUキャンプフィールド」では安全・快適な“手ぶらキャンプ”が楽しめます。目の前には地元食材、隣には温泉という贅沢な環境。利用者は年間1万人を超え、町内の飲食店や宿泊施設にも経済効果をもたらしています。



町民の誇りと支え合う文化
阿武町民を一言で表すなら、やはり「超真面目」。
それは単なる性格の形容ではなく、暮らしの中に根付いた価値観です。納税率は県内トップクラス。たとえ生活が厳しい時でも「町のためだから」と税を納める姿勢は、他地域から見ても驚くほど高い水準を維持しています。
花田町長の政治姿勢「打てば響く」も、この町の文化をよく表しています。
町民からの要望や意見に対して「できる・できない」の返答を曖昧にせず、その場で関係部署につなぎ、迅速に対応する。たとえば「道路の舗装が傷んでいる」という声があれば、担当課が現場を確認し、優先度を説明したうえで改善時期まで伝える。こうした“伝わった安心感”が、町民との信頼を強くしているのです。
そして、この信頼関係は暮らしのあらゆる場面に広がっています。イベントの準備、災害時の支援、学校行事、地域清掃──どんな場面でも声をかければ人が集まり、笑顔で動く。それは「町のためなら惜しまない」という誇りと、「お互い様」という助け合いの精神が支えているからです。



子育て支援も全国屈指
この町が誇るもう一つの特徴が、全国でも例を見ない手厚い子育て支援です。
高校生まで医療費は無料。保育料や給食費も完全無償化。しかも給食には地元の特産品が積極的に取り入れられています。無角和牛、福賀すいか、キウイフルーツ、梨…子どもたちは日常の中で「阿武町の味」を体験し、それが将来、地元への愛着と誇りにつながります。
町の給食センターでは、旬の地元食材を使った特別メニューの日には、生産者が直接学校を訪れ、子どもたちと交流することもあります。「自分たちの町で作られたものを食べているんだ」と知ることは、食育の大きな一歩です。
花田町長の素顔
取材中の花田町長は、終始、人懐っこい笑顔とユーモアで場を和ませてくれました。
剣道五段の腕前を持ち、今も防具を身につけ竹刀を握ることがあるそうです。そして、もう一つの趣味は大型バイクのハーレーダビッドソン。日本海沿いの海風を受けながら走る時間は、町長にとって最高のリフレッシュだとか。「潮の香りとエンジンの鼓動が重なる瞬間がたまらない」と、目を輝かせて話してくれました。
そしてフォトスポットの話題になると、まるで少年のように熱がこもります。
道の駅から望む男鹿島と女鹿島。その並び方が、親子のように見える位置があると、嬉しそうに“秘密の撮影ポイント”を教えてくれました。「あの子ども島に気づいたのは多分、僕だけだね」と笑う姿には、町の景色を宝物のように愛でる気持ちがあふれていました。

阿武町から未来へ
「人口減少は止められない。でも、転入超過は作れる」
この一言に、花田町長の信念が凝縮されています。少子高齢化が進む中でも、子育てや教育、雇用の充実で若い世代の移住を促し、転入者が転出者を上回る状態を生み出す──すでに阿武町では、この数年で転入超過を実現しています。
その根幹にあるのは「地産地消を核にした地域経済の循環」です。
無角和牛をはじめ、福賀すいかやキウイフルーツなどの特産品を活かし、町のブランド力を高める。そして、観光、キャンプ、飲食、加工業など多方面に雇用を創出し、地元の若者や移住者が働ける環境を整える。
花田町長は言います。
「阿武町の自然や食は“本物”です。本物だからこそ、人を呼び、残すことができる。この町の宝を未来に引き継ぎたい。」
豊かな自然と、真面目で温かな人々が紡ぐ阿武町。
その舵を握る花田憲彦町長の情熱は、確かにこの町の未来を明るく照らしていました。


援むすび山口 ぶっちゃけインタビュー!
花田町長の“山口愛”を教えてください
Q1. 好きな農林水産物、特産品、加工品は?
「やっぱり無角和牛ですね。」
町長の口から真っ先に出たのは、阿武町の宝ともいえる無角和牛。大正9年にこの地で生まれ、全国でわずか約200頭、そのうち約150頭が阿武町で育っています。霜降り偏重ではなく、自然の中で健康に育てる“アニマルウェルフェア”を重視した赤身肉。その深い旨みは一度食べれば忘れられません。「うまい肉は、牛が幸せに育っている証拠です」と、町長の言葉には説得力がありました。


Q2. 思い出のソウルフードは?
「イシダイの刺身ですね。」
港町ならではの新鮮な魚の味は格別。中でもイシダイは“刺身の王様”と町長。秋にはシイラの刺身も絶品だそうです。「とれたてを食べると、本当に幸せな気持ちになります」と目を細めて話してくださいました。
Q3. 好きな料理は?
「青ネギの“ぬた”が大好物です。」
やわらかく煮た青ネギを酢味噌で和えるシンプルな料理。奥さまが時折作ってくれるそうですが、「なかなか出てこないから、幻の一品なんです」と照れ笑い。
Q4. おすすめ観光スポットは?
「惣郷川橋梁(そうごうがわきょうりょう)ですね。」
日本海に向かって緩やかなカーブを描く鉄道橋の上を、朱色の列車(地元では“たらこ”と呼ぶ)が走る光景は、ジブリ映画のワンシーンのよう。列車の音が海風に混じって響く瞬間は、地元の人でも思わず足を止めるそうです。
Q5. 町長の素顔は?
剣道五段の腕前を持ち、大型バイク(ハーレーダビットソン)で海沿いを走るのが趣味。取材中も「海沿いを走る風景は最高だよ」と、まるで少年のように語ってくれました。


Q6. 山口県民の良いところは?
「真面目で協力的。それが阿武町民はさらに輪をかけて協力的なんです。」
町のために喜んで力を貸してくれる人が多く、そのおかげで様々な事業が実現しているとのこと。「民度の高さが誇れる町です」と胸を張って話されていました。
援むすび山口 中村店長の目
カメラ片手に歩く、阿武町のとっておきフォトスポット


最近カメラを趣味として始めた中村店長が、町長に「阿武町で一番のフォトスポットはどこですか?」と質問。
町長は少し考えてから、にっこり笑って答えました。
「道の駅から見える男鹿島と女鹿島。あの二つの島影は、夫婦のように寄り添って見えるんです。さらに特定の場所から見ると、お父さん、お母さん、その間に小さな子どもが立っているみたいに見えるんですよ。」

その光景を見られるのは、国道191号沿いの限られた場所。町長は「多分、あの子どもに気づいたのは僕だけだね」と、まるで秘密を打ち明けるような口ぶりで話してくれました。
そして、もう一つの絶景が惣郷川橋梁。全長189mの鉄道橋を列車が走る姿は、四季折々で違う表情を見せます。
春は桜、夏は青い海と空、秋は黄金色の田んぼ、冬は雪化粧──。町長の説明を聞いていると、まるでカメラのファインダーを覗いているような気持ちになります。




■ 援むすび山口の地産地消プロデューサーとしてのまとめ(編集後記)
今回の取材を通して、私はあらためて「町の未来はリーダーの熱量で変わる」という事実を感じました。
花田憲彦町長は、その熱量を惜しみなく町に注ぎ続ける人です。
話題が無角和牛になれば、飼育哲学から世界展開の構想まで、情熱を込めて語り尽くす。
観光やフォトスポットの話になれば、少年のような笑顔で「ここはね…」と秘密の場所を教えてくれる。
町の課題について問えば、数字と現実を冷静に見据えながらも、「必ず解決できる方法がある」と即答する。
その言葉と行動には、一貫して「町民の暮らしを守り、誇りを育てたい」という信念が通っています。
打てば響くように即座に動き、形にしていくスピード感。外に出向き、人に会い、阿武町を全力で売り込むトップセールスマンとしての姿勢。そして、町の自然や産業を“商品”ではなく“文化”として未来へ残そうとする視点──どれもが印象的でした。
阿武町の強みは、豊かな自然と真面目で協力的な町民、そしてそれらをつなぎ未来へ導くリーダーの存在です。
花田町長の情熱と行動力があれば、無角和牛も福賀すいかもキウイフルーツも、地域の誇りとしてさらに輝きを増すはずです。
この町は“本物”がそろっている。
そして、その本物を全国へ、世界へと広げていくための舵取り役が、確かにここにいます。

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