「なぜ下松なのか」「なぜもやしなのか」「なぜこの味になるのか」

山口県には、農業とも工業とも異なる“第三のものづくり”を続けている会社があります。
昭和28年から70年以上、ただ「もやしだけ」を作り続けてきた下松市の 株式会社あおき さんです。
今回、青木慎太郎社長にお話を伺い、その歩み、技術、そして“下松でつくる理由”に深く触れることができました。

株式会社あおき・黒豆もやし・ブラックマッペ・緑豆太もやし・小粒大豆もやし・大豆もやし・

創業の歴史と初めて物語:もやしから始まった一家の70

昭和28年当時、青木家が営んでいた農業は、天候や季節に大きく左右され、不安定な時代にありました。
その中でお祖父さまが「一年を通して地元の食卓を支えるものを」と選んだのが、もやしでした。

当時のもやしづくりは、現在のように機械化されておらず、
夜中でも4時間おきにホースで手作業で水をかけ続ける、本当に過酷な仕事だったそうです。
こうした“当たり前の苦労”が代々受け継がれ、父へ、母へ、そして慎太郎社長へと、
技術だけでなく“生き方”としても引き継がれてきました。

この歴史そのものが、あおきの原点なのだと思います。

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作り方と技術:畑では育たない野菜を地域の味にするために

もやしは土の上で育ちません。
暗い部屋で、温度・湿度・水量を緻密に管理し、わずか1週間で成長する一方で、
数日で腐敗が進む“極端にデリケートな作物”です。

青木社長は「もやしは育ちが速い分、腐るのも速いんです。だから、栽培よりも“衛生管理”が仕事の9割です」と語ります。

豆を80~100℃の熱湯で殺菌し、栽培容器を隅々まで洗い、
部屋全体を洗い、空気の流れをつくり、
4時間ごとの散水を続けながら、
“もやしが腐らない環境”を保ち続けることが重要になります。

ひとつのミスがあれば、栽培室全体が全滅してしまうほど厳しい世界です。
その緊張感の中で、“毎日必ずスーパーに並ぶ”という当たり前を支えているのが、
あおきの技術であり、姿勢なのです。

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黒豆もやしと細もやし文化:山口県の味覚をつくった技術革新

全国では太もやしが9割を占めており、細もやしは“マイナーな存在”です。
しかし山口県では、この常識がまさに逆転しています。
4:細6──山口は「細もやし県」です。

細もやし特有の甘味や火通りの良さが、美味しさを決めるため、地域に深く受け入れられてきました。

ただ、この“6割の文化”を形づくったもう一つの理由が、
株式会社あおきさんの技術革新です。

青木社長は、東京で見た「美しいもやし」に衝撃を受け、
細もやしの可能性を徹底的に探求し始めます。

日本に一台しかない細もやし専用の機械ライン。
折れにくく、傷みにくく、火に強い細もやしを実現した設備。
太もやしの技術を細もやしに応用する発想。

こうした取り組みの結果、黒豆もやしは
もやし業界で初めてジャパン・フード・セレクション金賞 を受賞しました。

文化 × 技術 × 水。
この三つがそろったことで、「細もやしは山口の当たり前」という独自文化が生まれたのです。

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地産地消・身土不二:下松でつくる理由が味を決める

もやしは99%が水でできています。
だからこそ、どんな水で育つかが味を大きく左右します。

下松の地下深くから汲み上げられる地下水は、ミネラルを豊富に含んだ“硬水”で、
黒豆もやし特有のシャキッとした食感や甘味を引き立てています。

青木社長は「同じ豆でも水が違えば味は変わります」と話されます。
これはまさに 身土不二(身体と土地は切り離せない) の思想そのものです。

さらに、あおきのもやしは“地域循環”の中にも組み込まれています。

もやしの栽培過程で生まれる殻や根は、通常なら廃棄物として扱われますが、
あおきさんでは、これらを発酵させ、秋吉台周辺の牧場で牛の飼料として再活用しています。
実際に、牛を太らせるうえでも効果があると評価されているそうです。

つまり、もやし飼料地元の食卓という循環が成り立っているのです。

地元の水で育ち、地元の技術で磨かれ、
地元の循環の中で次の価値を生み、
最終的には地元の食卓に戻っていく。

もやしは、下松で“土地と暮らしを結ぶ作物”として昇華していると言えます。

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もやしの役割・地域の食卓・未来

もやしは主役になる食材ではありません。
しかし、料理全体の「骨格」をつくる重要な存在です。

炒め物では香りの立ち上がりを支え、
鍋ではボリュームと温度の安定に寄与し、
スープでは旨味を吸いながら味の厚みをつくります。

黒豆もやしは特に火に強く、シャキシャキ感が長く続くため、
青木社長のおすすめは「強火でサッと炒める」こと。
さらには「天ぷらにすると驚くほど美味しい」という話も印象的でした。

また、もやしは地域の食生活を支える“安全弁”としての役割も担っています。
天候に左右されず、毎日安定して供給できるからこそ、
価格が比較的安定し、家庭の食卓を支える存在であり続けることができます。

未来に向けては、散水制御の改善、最新設備の導入、JGAPの毎年更新など、
“変わらないために変え続ける”取り組みを静かに重ねられています。
青木社長は控えめに「日々を積み重ねるだけです」と話されますが、
その姿勢こそが、70年以上続く企業の強さだと感じます。

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むすびの結び

もやしは脇役のように見える食材ですが、
株式会社あおきさんのお話を伺うと、
そこには 水の物語、歴史の物語、文化の物語、循環の物語 が折り重なっていました。

下松でつくられる理由。
細もやし文化が受け継がれてきた理由。
毎日食卓に届く理由。

そのすべてが“地域の力”であり、
これこそが援むすび山口が伝えたい地産地消の本質です。


援むすび山口ぶっちゃけインタビュー

青木慎太郎さんという“人”を知ると、もやしがもっと美味しくなる。

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生産者を知ると、食材は急に立体的になります。
どんなに優れた技術があっても、その奥にある“その人自身の温度”が、食材の背景にそっと滲み出てくるからです。

青木慎太郎社長は、控えめで穏やかな方ですが、話し始めると実直さと情熱がふわっとあらわれます。
「好きな山口の食材は?」と尋ねると、迷わず「鶏肉ですね」と返ってきました。
体づくりのためにタンパク質をしっかり摂っているそうで、なるほど鍛えられた肩のラインに納得します。
長門の焼き鳥文化の話をすると、「そんな歴史があるんですね」と素直な驚きを見せながら聞き入ってくれました。
食材をつくる人は、食の背景にも自然と興味が向くのだと思います。

ソウルフードを尋ねると、表情がぱっと和らぎます。
下松名物の“紅蘭の牛骨ラーメン”。
そして、徳山で家族とよく食べに行っていた“第二スターの中華そば”。
その話をしている時の青木社長は、どこか少年のような目をしていて、
「食の記憶には家族の風景が映っている」ということを思い出させてくれます。

観光スポットの話では、少し意外な答えが返ってきました。
有名地ではなく、自宅の近くを流れる 末武川の桜並木
“手を加えない自然のままの桜が好きなんです” と、ゆっくり言葉を選びながら話してくださいました。
暮らしの延長に“好きな風景”がある、その感じがなんとも青木社長らしいと思います。

そして、意外にもかなりのアスリート。
マラソン大会には毎年出場し、夏は筋トレで体を鍛える。
「走ってる時は無になれるのがいいんですよ」と笑う横顔は、
日々、緊張と思索を繰り返す経営者らしい“静かなストイックさ”がにじんでいました。

仕事の話になると、とたんに謙虚になります。
「運が良かっただけです」「たまたまなんです」
そんなふうに控えめに言いますが、
山口県の食文化の一角を支え、70年以上の歴史を未来につないでいるのは、
まぎれもなく青木社長の積み重ねと努力です。

“人を知ると、食材は美味しくなる”。
あらためてそう実感できた時間でした。

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中村店長の「山口直送!トリビアな話」

太もやしと細もやし──県民しか知らない“山口の味覚”

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山口県民は気づいていない。
けれど県外に出ると、ほぼ必ず驚かれる。

「山口県って、細もやし文化だよね?」

山口県民の多くが当たり前だと思っていることがあります。
それは、スーパーに並ぶ「細もやし」の存在です。
ところが、この“当たり前”は県外に出た瞬間、当たり前ではなくなります。

全国の流通量は 太もやし9割:細もやし1
しかし山口県はその逆で、株式会社あおきの出荷比率は 6:太4
全国の常識から見ると、ちょっと驚く“逆転現象”が起きています。

細もやしに使われる豆はブラックマッペ。
火通りがよく、甘く、香りが強い。
広島文化圏の“お好み焼き”と相性が抜群で、この地域にしっかり根づいていきました。

とはいえ、文化だけでは“6割”には届きません。
ここには、株式会社あおきの 技術と決断 が大きく関わっています。

20年以上前、青木社長は東京で見た「綺麗なもやし」に刺激を受け、
細もやしの品質改良へと舵を切られました。
太もやしで培った技術を細もやしに応用し、
根が少なく、折れにくく、甘い細もやしを徹底的につくり込み、
メーカーと共同開発して日本で唯一の細もやし専用ラインを構築。
その革新の積み上げが、山口県の食卓を確実に“細もやし中心”へと変えていきました。

だからこそ、県外で
「もやしって細いよね?」
と言う人がいたら、その人は高確率で山口県民です。

細もやしは、山口県の静かなソウルフード。
土地の文化、つくり手の手間、下松の水、生活のリズム──
そのすべてが重なって生まれた、まさに“ローカルの結晶”なのです。

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